▶侍従川の四季と侍従川讃歌(元・侍従会顧問 廣瀬一雄)
侍従川は四季折々の姿を見せて私たちを楽しませてくれます。今では田んぼがなくなり家がたくさん建っていますが、侍従川は昔と変わりなく静かに流れています。
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● 侍従川の四季
1)春
雪が溶けて田の面に張った氷も消えて田んぼに水たまりが出来るころになるとオタマジャクシが泳ぎはじめる。明堂(みょうど)の吉野桜が満開になって当たり一面花吹雪になる。竹藪ではウグイスがなき田んぼの土手にはツクシが顔をだしタンポポの花でうまる。春日面(かすがめん)のネコヤナギも白金色の芽を吹きはじめる。
2)夏
五月そろそろ水もぬるまって農作業が始まる。稲の苗も大きくなって子供たちは苗間に入りズイ虫(害虫)を取る。六月中旬の夜になると夏祭りの太鼓の練習をする音が聞こえてくる。この頃からそろそろ田植えが始まる。
七月十四日は瀬戸神社の夏祭りである。瀬戸、六浦、川、三艘の順に屋台が並んで各村中を繰り歩く。大道へは丁度昼頃に到着する。夜になると小川や田んぼの畦道でホタルが飛び交いホタルを呼ぶ子供の声が聞こえてくる。「ホ−ホ−ホ−タル来い。あっちの水はニ−ガイゾ、こっちの水はア−マイゾ、ホ−ホ− ホ−タル来い。」
八月の暑い昼下がり大池の栓が抜かれる。池の中にはコイ、フナ、ドジョウ、エビなどが沢山いて子どもたちも大人も夢中で魚取りに興じる。帰り道、大堰(おおぜき)で泳ぐ。夕方から鼻欠地蔵の前の広場に集まって田圃に水引をする。
かくらの谷戸の蓮田では蓮の実がうれて、子どもたちは蓮の実取りに夢中になる。八月十五日はお盆の中日で夕方から松明に火をつけて虫送りの行事が行われる。
3)秋
田圃一面が黄金色に染まる頃になるとそろそろ稲刈りが始まる。伊賀山の周辺の土手では彼岸花が満開となって丁度赤の絨毯を敷き詰めたようになる。山ではモズの鳴き声がする。この頃になると栗拾いが始まる。堂山から登ってお富士山を廻り、かや場あたりまで行く。小粒だが味はよい。
十月一日は山王様のお祭りである。昔はノボリを立てて参道に灯篭を建て鳥居の前に寿司屋(牛寿司)が出て参拝する人をもてなしたと村の長老から伺った。
十一月二十三日は収穫祭である。大道の田圃でとれた米は大変良質でいつも一等米であったと聞いている。
4)冬
毎年、雪は三十センチぐらい積もる。雪が降るとパッチンを作ってホオジロ、アオジなどをとって遊ぶ。お正月には新しい服や靴を買ってもらい凧上げ、羽根つき、双六などに興じる。
一月十四日の朝はドンド焼きの日である。前の日に集めた門松や書き初めを積み上げ燃やして餅を焼き、これを食べて無病息災を祈った。一月十五日頃になると、かや刈りが始める。この行事は村中の人が総出で行い大鳥居の谷戸から行く人や堂山から登って行く人もいる。この刈った茅は田圃の隅に積んでおいて三月頃、屋根の葺き替えに使われる。この作業は村中の人が出て行う。朝のうちはみんなの顔が良く分かるが午後になると顔は煤で真っ黒になり誰が誰だか分からなくなる。
夕方、屋根屋さんが刈り終わった屋根は実にきれいで女の人が髪結いに行った時のようで美しいものである。この行事が終わる頃になると山の木の芽もふくらんで四季は終わる。
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【侍従川讃歌】
作詞:廣瀬一雄 作曲:高橋揚一
※ 楽譜 侍従川讃歌楽譜20230830.pdf
1. 緑深き朝比奈の こけむす谷間若水に わき出る清き流れあり 名にしおう若水川
若水川から侍従川 流れ流れて杉の先 大道耕地を見渡せば 大堰近く水ぬるむ
2. 大水の谷戸を右に見て 川間流れ明堂橋 諏訪の橋から侍従橋 並木観音おわします
高橋過ぎて三艘へ あし原抜け高谷の里 内川橋を越えたなら 夕日にはえる平潟湾
侍従とうとうと流れ 歴史を刻むふるさとは 照手の夢を語り継ぐ 永遠の流れよ