■侍従会
正式名称は「ふるさと侍従川に親しむ会」です。
■侍従川
横浜市の金沢区内を侍従川が流れている。金沢区の朝比奈の森を源流とし、同区内の平潟湾に流れ込む全長約3Kmの小さな河川。川の始まりと終わりがともに金沢区内の地域に密着している川です。この流域は海に近く、また森にも近く横浜市では自然にまだ恵まれている地域です。
「ふるさと侍従川に親しむ会」では、この「侍従川」を活動の領域とし、川のクリーンアップ、生き物や水質の調査、アシの植え付けなどをおこなってい ます。「ふるさと侍従川に親しむ会」は、この侍従川で、子どもたちがむかしのようにもう一度遊べる自然豊かな川として守り育てていくことを目的とする会で す。
■はじまり
◆トンボ池(しぜん広場)の誕生
大道小学校の裏庭に、湧き水が出ていました。当時の生徒が、ここにオタマジャクシのすめる池をつく りたいと、自分たちで穴を掘り池をつくりました。翌年その子どもたちは卒業していきましたが、その熱意と行動力に打たれた理科の先生(トンボ博士とも呼ば れていました)が、この池をなんとか利用できないかと父兄・地域の人に相談したところ、池をきちんと整備し、大道地区のむかしの自然などに触れられる「ふ るさとの原風景」の場所にしようということになりました。平成4年のことです。
その場所には倉庫などがあったのですが、先生方はもちろんPTA・父兄・地域の人たち約250人で、倉庫の解体、法地(がけ)、池の掘削などに汗を 流しましした。最初に池をつくった子どもたちも、すでに中学生になっていたものの積極的に整備にかかわり、こうしたことを聞きつけた生徒の親で工務店の人 が、「赤字」でユンボを用意してくださるなど、大ボランティア事業となりました。
◆平成5年6月5日 「大道ふるさと生き物に親しむ会」結成
池の整備にあたり中高生の指導にあたった大人たちが呼びかけて、 「大道ふるさと生き物に親しむ会」を結成し、大道小学校のトンボ池(しぜん広場)で整備保全観察活動を開始しました。学校と地域で連携してできたこのトン ボ池には、期待通りトンボが飛来し、メダカもたくさん泳ぐ「小さいけれど自然豊かな池」になりました。調査や学習会、各地の発表会に出場するなどしなが ら、「大道ふるさと生き物に親しむ会」は「だいふる会」の名前で親しまれ、子どもにも、大人にも、活動の輪が広がっていきました。
◆平成7年6月24日 「ふるさと侍従川に親しむ会」に改称
ある時、この池で育ったメダカが雨水管を通じて近くの「侍従川」 に流れ込んでいるのを子どもが発見し、侍従川の探検や調査をするようになりました。それから、大道小学校のトンボ池からメダカが侍従川に流れていったよう に、私たちの活動もその領域を侍従川流域に拡げることとなり、これを機会に会の名称も「ふるさと侍従川に親しむ会」に改めました。
大人たちは、むかしこの川入って魚を捕ったり、トンボや蝶を追いかけたりして、この侍従川の自然と触れて育ちました。そして、子どもたちに少しでも 川に入って遊ぶ楽しさを伝えたいとの思いで、この川での活動を始めました。主な活動は、川のクリーンアップ、生物調査、水質保全、アシの植栽などです。
当時の中心的存在だったO先生は、「スポーツが得意な子どもには自己表現の場がたくさん用意されているが、スポーツよりも生き物や自然にふれあって いきたいと願う子どもも多いはず。そのような子どもが自分を表現でき、活躍できる場をつくることに意義がある。」と言っています。この言葉を裏付けるよう に、中高生が主体となった学生部の活動は「全国野生生物保護実績発表大会」で環境庁長官賞を受賞したり、川の源流をさかのぼるうちに他のグループとの交流 が生まれ、「円海山緑地ネットワーク」に参加するなど、活動する一人ひとりの興味や関心が、広がりをもち、地域の輪へと自然につながっていきました。
◆主な受賞歴
平成5年度/1993
・8月30日 「神奈川県野生生物保護実績発表大会」で優秀賞受賞
平成6年度/1994
・8月30日 「神奈川県野生生物保護実績発表大会」で県知事賞-全国大会へ
・12月12日(月)「全国野生生物保護実績発表大会」全国大会でグランブリ受賞
環境庁長官賞を受賞/於:環境庁
平成8年度/1996
・3月10日 横浜金澤地図博覧会で展示地図が優秀賞
・5月8日 横浜市 第4回「横浜環境保全活動賞」を受賞/市民の部
表彰式は6月9日パシフィコ横浜プラザ
・5月15日 横浜金沢東ロータリークラブより表彰される
平成9年度/1997
・10月27日 文部省「教育奨励賞」優良賞を受賞
■ジュニア探検クラブの誕生
「大道ふるさと生き物に親しむ会」としての発足か ら3年たった平成8年、会に転機が訪れました。活動の核になっていたO先生が転任することになったのです。O先生には転任後も活動のサポートを受けること はできましたが、事務局体制の整備など、新たな運営体制をつくっていく必要が出てきました。
まず小学生とのつながりを保つために、「ジュニア探検クラブ」を発足させました。「地域の歴史や自然を調べたり、探検したりすることによって、自然 に興味を持ってもらい、地域に愛着を持ってもらえる子どもを育てていきたい」との趣旨のもと、活動にあたっては自治体、各小学校と連携をとり、近くにある 大学の教授・学生や、学生、「横浜自然観察の森」レインジャーの指導を受けて、当会のスタッフと学生部(中学生・高校生・大学生)が運営を担うことになり ました。
しかし、学生部のメンバーから、小学生の面倒をみるだけではおもしろくないという意見が出され、自分たちはどのような活動をしたいのか、考え、話し 合いの場をもった結果、学生部は生物調査などの自主活動を中心にしていくことになりました。こうした学生部の動きに刺激を受け、大人たちも自分たちが楽し める企画をもっとつくろうという動きに発展しました。ジュニア探検クラブが誕生したことによって、学生部も大人たちも、会の活動のあり方について主体的に とらえなおすことになったのです。
[現在の会の運営]
会 員:現在約100名+ジュニア30名+学生部20名
会員の募集:ホームページや会報で募集しています。近隣の小・中学校へも働きかけています。
スタッフ :会は会長が統括し、副会長、会計、事務局、実行委員会のスタッフを置く。多方面からの助言等を得るため、顧問、相談役の 役員の方にも協力していただいています。スタッフは、(1)主体となる指導者、(2)ジュニアを指導するスタッフの他、(3)サポート役の大人たちの構成 としています。
(1)主体となる指導者
会の活動の主体となる学生部(中・高校生)や、ジュニア探検クラブ(小学生)会員を対象として、自然観察・環境保全面で指導していきます。
(2)ジュニアを指導する先輩の中学・高校生
小学生のときから参加していた会員が、中学・高校へ進学しても会にとどまり、調査活動等を行いながら後輩のジュニアを指導します。青少年の健全育成の観点からも、この世代(学生部)に主体性をもたせて、運営しています。
(3)サポート役のおとなたち
地元地域のおじさん、おばさんたちが中心であり、会員の保護者であったり、地域活動をしているボランティアが多い。
※地域ボランティア:PTA、青少年指導員、体育指導員、子ども会役員、他地域活動している役員
「ふるさと侍従川に親しむ会」の特徴は、幼児から高年齢者までが会の活動に参加したり、協力したりすることであるが、このおじさん・おばさん達のパワーがすごい。
この地域やそこにある文化に対して愛着を感じており、またこれらを次の世代にも楽しみながら伝えていきたいという想いがパワーの源の様です。各自の職業はサラリーマン、自営業、学校の教職員、自治体の職員、主婦、大学教授、大学生と多岐にわたっています。
この川は今でも、けっして昔の自然が戻った訳ではありませんが、川に入れば、子どもたちは生き生きと遊んでいます。もっと自然豊かにしてあげたいと思います。この地域の文化(昔のあそびや昔話)や自然(川・魚 ・鳥・昆虫など)を少しでも子供たちが経験したり、触れられたりでき、自然を愛し、思いやりあふれる人になってくれればと願わずにはいられません。
[ジュニア探検クラブ ことしの行事]
H9
1月 流域ウォークラリー
2月 野島公園で鳥を観察する会
3月 横濱金澤まち博覧会に参加・協力
6月 里山ハイキング/入学式
7月 春の侍従川クリーンアップ
8月 夏休み生き物野外教室
9月 秋の侍従川クリーンアップ
10月 金沢水の日
11月 侍従川学校
12月 竹細工教室
■会・活動・川への思い
子どもたちが、自然・川にふれることによって本当に、何か心に訴えたり、心に残ったりするものなのでしょうか、私たちの活動は少しは役に立っているのでしょうか。学生部のメンバーの何人かに、川のおもしろさや川への思いを語ってもらいました。
★吉田 竜二‥関東学院高校定時制:最後の一投で幻のアユが捕れた。
「調査をしていて楽しいのは生き物を見つけたとき。特に 今まで見たことのない生き物だとうれしい」これまで一番印象に残っているのは仲間とアユを捕ったときのこと。「その日は投網を打ちながら下流から上流に行 きました。ずっと入らなくて、最後の一投で入ったんです。17cmの大きさでした。うれしかったなあ」侍従川にアユがいることを彼らが初めて証明したこと になるのだ。
これをきっかけに周りの人の侍従川を見る目が変わり、「あそこで××を見たよ」というように、おじさん、おばさんも情報をくれるようになった。 アユが見つかったことは、大きな出来事なのです
★浅井 信次(磯子工業高校):子どもが遊べる川にしたい
「簡単に水辺に下りられて、魚を網ですくえるような川にしたいなあ。自然に親しむのは子どものときでなきぁ。子どものときに魚をとった思い出があると、大人になっても自然と接したいと思うだろうし。川で遊ぶのはホントに楽しいんです。」
★飯村 優介(金沢高校):-ハグロトンボ発見の感動を語る-
絶滅がウワサされたハグロトンボを発見。ハグロトンボは40年 ほど前には侍従川にもたくさんいた。この10年ほど横浜では確認されず絶滅したとされたトンボ。「ハグロトンボは何がなんでも見つけてやろうと2、3年 ずっと追い続けてきた調査重要種でもあったんです。だから、見つけたときはうれしくって。次の日、川の中に入って写真を撮りました。 結構いい写真が撮れたんです。」
※このことは、地元の神奈川新聞でも大きくとりあげられ、写真ものりました。「侍従川に清流がもどった」と。 排水を垂れ流す工場に、やめるように直談判に行ったり、水の浄化作用のあるアシを植えたり、魚の隠れ家や産卵場所になるクレソンを植えたり、そのかいあっ て、少しずつ生き物の数も種類も増えてきています。「川がきれいになれば魚が戻ってくるし、そうすると魚をねらって鳥も来るようになるんですよ」
■今後の取り組みについて
この会の活動は、横浜市金沢区内の大道小学校のトン ボ池から始まったものですが、トンボ池のメダカが侍従川に流れていって、たくさんのメダカが泳ぐ川となりました。メダカが池から侍従川に流れていったよう に、会の活動領域も点(トンボ池)から線(侍従川)へと拡がりを持つようになり、活動内容もより一層地域に密着していきました。これからは、地域はもちろ んのこと、行政や小・中学校・近隣の大学、そして市内外で活動している環境保全団体とも連携しながら、活動の領域も面へ拡げて行きたいと思っています。
すでに、「イルカ丘陵ネット」、「円海山緑地ネットワーク」、「金沢水の日」との市民団体と連携して活動をはじめており、大きな収穫を得つつあります。
■おわりに
むかしの様に子どもが川に入って遊べるような自然豊かな川に守り育ててゆきたい。ホタルが飛び、ふな、メダカが泳ぎ、小鳥・水鳥が遊んでトンボがいる。そんな侍従川を次の世代に伝えたいと思っています。
※1「イルカ丘陵ネット」
多摩川流域からの神奈川県側の三浦半島までの地域で活動している環境保全市民団体交流ネットワーク。※行政区を越えての交流地図で見るとこの地域の形が、イルカがジャンプしているようにみえることからのネーミング
※2「円海山緑地ネットワーク」
横浜市で一番高い山のある円海山域。この山域を源とする河川等を活動領域としている環境保全市民団体の交流ネットワーク。※行政区を越えての交流
※3「金沢水の日」
金沢区にある海・平潟湾、そこににそそぎ込む河川、その流域部、源流部を活動の領域としている環境保全市民団体の交流ネットワーク。毎年10月または11月に「金沢水の日」に水・自然・環境等をテーマに各団体合同でイベント行い、多数の一般市民が参加している。
(執筆 長橋輝明)